人間のコミュニケーションで,言語情報よりも非言語情報の方が大切だとかそうでないという話をたまに聞きます.ちょっと授業時間が余ったので,息抜き活動として,こうしたことについて考えさせてみました.
私がTwitterをやっているのは生徒も知っているので,Twitter in Englishと題して,過去に見つけたバズっていた英語圏の人による英語のツイートをパワーポイントで見せました.
以前バズっているのを見つけた英語のツイートの画像部分だけを提示.これがバズっていた英語のツイート(私が初めて見た時は20万いいねくらいでしたが,今は50万いいね,15万リツイートを超えていました)だと伝え,”Guess what was tweeted with the photo(この写真と一緒につぶやかれていたのはどんなことだか考えてみよう).”という問いを投げかけます.一生懸命考えてくれました.
次に,実際につぶやかれていた言語情報も見せます.中学生にはやや難しいですが,英語が得意な生徒が意味を言ってくれます.私の方からも改めて意味を説明.
ぽかーんとした表情で,徐々に「これのどこが面白いの?」という意見がちらほら.海外在住経験者などのやや特殊な環境を経て英語が得意になった生徒はニヤニヤ(または声をあげて笑っている).ここで「単に翻訳しただけでは面白さは伝わらないことが多い」ということを説明します.「音声化した場合のリズムなどもいわば『人の心に響く要素』のひとつで,まだまだみんなは未熟なのだよ!」という感じに伝えます.「graduateは通常めでたいことでaccidentではないから,accidentally graduatedというコロケーションも面白いよね」と(元ツイート).
今度は以下のような動画付きのツイートを見せました.
Today as I was walking home after my run I saw a large lemon rolling down the hill. It kept rolling for about a quarter mile. And now you can see it, too. pic.twitter.com/dQoHi4RrXS
— Mike Sakasegawa (@sakeriver) July 11, 2018
ただひたすらレモンが転がるだけの動画.「これがバズった(30万いいね,10万リツイート以上)のはなぜだろう.どんな言語情報が添えられていたのだろう」という同様の問いの投げ方.上のパスタのものと同様,言語情報は時間差で提示しました.こちらの方は,パスタの時よりもさらに反応が悪く,ユーモアが全く理解できていなかったみたい.
以下,私なりの解釈ですが,①なぜレモンが400メートルも止まらずに転がるのかという不思議さ(謎),②ランニング帰りに普通に歩いていてそうしたレモンを見つけるという偶然性,③それをしばらく追って撮影する投稿者の奇抜さ,④ツイート内容の物語性(昔話の冒頭のように,これからどうなるのか期待させるような語り調),このあたりが広く拡散された要因なのかもしれません.生徒たち(中学2年生)はやはり④がうまく理解できていない(appreciateできていない)ようでした.
次に,スライドは以下のような画面に切り替わります.At the HospitalというMr. Beanのコント動画を見せました.
ご存知の通り,Mr. Beanは基本的にサイレント・コメディ.Mr. Bean自体を知らなかった生徒も多かったようですが,見せたところかなりの生徒が楽しんでいました.
先ほどの英語のツイッターはあまり共感できなかったのに,言語情報のほとんどないMr. Beanを楽しめたのはなぜだろう?
と,こんなことを考えさせました.ここで,冒頭の「言語情報よりも非言語情報の方がコミュニケーションでは貢献度が高いの?」という問題に突き当たります.
「メラビアンの法則」というものがあるそうです.この法則では,話し手が聞き手に与える影響は「言語情報(verbal)」「聴覚情報(vocal)」「視覚情報(visual)」の3つから構成され、その割合はそれぞれ,7%,38%,51%という数字だと言っています(こちらを参照:https://bizhint.jp/keyword/104435).この割合がどれほど正確かどうかわかりませんが,「コミュニケーションの多くは非言語情報(non-verbal)に依存している」というのは私もそうなのだなと思っています.
外国語教育で最も難しいことの1つに,非言語情報をいかに正確に理解させるかということだと思っています.私の場合も,聴覚情報(リズム,イントネーション,声の大きさ,トーンなど)を出来るだけ正確に伝えるように努めていますが,文字で伝えられる言語情報には「補わなければならないことが多い」というのは確かなことだと思っています.
敬愛する青谷優子さんは,朗読で大切なこととして,comprehension(英文理解)の他に,visualization(書かれている内容を「立体的に」想像せよ)とimagination(tones, pauses, stresses, expression)を駆使して、想像力をめいっぱい働かせながら朗読せよ)とおっしゃっていました(2017年度 第5回研究会).私も朗読に力を入れているのはこの辺りのことをとても大切だと考えているからなのですが,この「非言語情報までを含む知識」をしっかり身につけられないと,外国語を介して本当に心に響く共感はなかなか得られないのかなとも思っています.
編集後記(5月25日加筆):ちなみにこのMr. Beanの動画を見せたのは,授業時間調整のためという意味もあったのですが,Describe Mr. Bean in Englishと題した任意の自由課題を提示するためでした.英語力が抜きん出ている習熟度の高い生徒は何名かいるわけで(こういう学習者にとっておそらく普段の授業は退屈ですからね).
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