先生との思い出


去る2019年8月14日,大学時代にお世話になった東後勝明先生が亡くなりました.先日お別れ会に出席してきましたが,正直まだ実感がわかず,毎年教え子で開催している誕生日会にまた笑顔で顔を出されるのじゃないかとか思ってしまったりします.先生について少し書いてみようと思います.

大学に入学した時に,所属学科の長だった東後先生は,大教室の壇上にやってくるなり黒板に”Ask, and it shall be given you.”という英語を書かれたのを覚えています.「聖書の言葉だけど,大学って自分で動かないと何もしてくれないところだから…」といったことを仰っていたような気がしますが,その時はなんとなく「大学の先生はかっこいいことを言うなぁ」程度に考えていました.後になって大学というのは先生が仰っていた通りの場所だなぁと思いました.

それから大学3年生の頃に,先生が担当する「英語音声学研究」と言う授業を取りました.J. D. O’ConnorとG.F. Arnoldによって書かれたIntonation of Colloquial Englishという本の邦訳版『イギリス英語のイントネーション』(訳:片山嘉雄,長瀬恵美,長瀬慶来)を使った授業でした.授業はとてもわかりやすく,今まで自分が経験的に知っていた英語の韻律の知識が明確な形で紐解かれて理解できるようになりました.

英語音声学の授業が面白いなぁと感じたのはこのあたりからでした.また,東後先生がお若い頃にNHKの語学番組で活躍されていたことも友人から教えてもらいました.高校時代からNHKのラジオ番組を聞いて英語を学習してきたので,東後先生からもっと色々なことを教わりたいと思って,大学院に進学しました.

大学院では「自分のやりたい研究」に対する明確なアプローチが見つからずとても苦労しました.先生の研究指導は哲学的な話になることも多く,なかなか出口のわからないディスカッションになることもありましたが,こんなできの悪い私を最後まで丁寧に面倒を見ていただきました.

今年の夏に先生が昔にO’Connor & Arnoldのイントネーション理論を学ばれたロンドンでサマーコースに参加しました.10年前にも参加しましたが,色々自分を振り返る意味で再び参加しました.不思議なことに,私が所属していたグループでは,毎日O’Connor & ArnoldのIntonation of Colloquial Englishをテキストとして使った授業をしていました.また,参加者には『イギリス英語のイントネーション』の訳者の一人である長瀬慶来先生も参加しており,色々とよくしていただき自分としては夢のような時間を過ごすことができました.そんな矢先に先生の訃報を聞きました.とてもショックでした.

英語教育に関して,当時先生が仰っていたことは,「最近の日本の英語教育は加熱し過ぎている.教育は単なるskill gettingになってはいけない」ということでした.英語の達人として憧れて先生の研究室に入った私は,当時はそのことがよくわかっていませんでした.理解できるようになったのは,教員になってしばらくしてからでした.

お若い頃の先生のエピソードを聞くと,英語力向上に貪欲で,時に他人にもそのスタンダードを押し付けていたこともあったようです.幸か不幸か,私はそうした先生を知りませんでしたが,英語教育に対してとても慎重な考えは,教員生活を10年以上やった今はよくわかります.英語教師を目指す人には,私のように,英語が好きで,自分の英語力を高められて好きな英語を教えてお金をもらうことができるからという理由でなる人もそれなりにいると思いますが,「学校で教える」という話になると考えなければならないことが増えていきます.

先生には本当に多くの影響を受けました.新しい道に進んだことをご報告ができず残念ではありましたが,今は安らかにお休みになっていることと思います.心よりお礼を申し上げるとともに,ご冥福をお祈りいたします.


takeondo
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英語教師。学生時代に英語音声に魅了され、英語教師の道へ。とりわけ関心があるのは、英語のプロソディ(超分節音的側面)とよばれるリズム、イントネーションなど。英語朗読、英語落語にも興味があります。 Certificate of Proficiency in the Phonetics of English 2nd Class 趣味:囲碁(四段)、ランニング(ハーフ1時間30分/フル3時間40分)

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