音声学の入門書です。私とほぼ同世代で、精力的に活躍されている言語学者ということで勝手に親近感を持ち、慶応大学の言語学者(音声学者)川原繁人先生の著書『音とことばのふしぎな世界:メイド声から英語の達人まで』を購入して読んでみました。オンセー屋英語教師としては、非常にワクワクするタイトルです。簡単にご紹介させていただきます。
わかりやすい
一章を読んだだけで、すぐにそう思いました。「これは授業で使うしかない」と思い、本の中で紹介されている「音象徴」について中学生3年生の授業で話してみました。生徒の反応は非常に良く、かなりの生徒が音声学に興味を持ってくれました。
ユーモアあふれる身近な例
「音象徴」とは、なぜ「いぬ」は[inu]という音で発音されているのか、なぜappleは[ǽpl]と発音されるのかという、恣意的に決められておりつきとめられないとされていたような問題に対して答えを与えてくれます。「特定の音は特定のイメージと結びつく」というのが音象徴の基本的な考えです。
- 「ゴジラ」は、ゴリラとクジラを掛け合わせた造語。では、なぜ「クリラ」ではだめなのか?
- 大きなテーブルと小さなテーブルがある。片方が’mil’で、もう片方が’mal’という名前だとすると、大きな机を表すのはどっちか?
- 男性らしい名前、女性らしい名前の音声的特長とは?
こうした問いに対して答えを与えてくれるのが音象徴の考え、ひいては音声学ということになります。
私は英語教師なので、「英語音声学」の話を中心に、授業で紹介することが多いのですが、私たちが普段無意識に使っている日本語の音声についても話すことがあります。英語の音声を知るには、身近な日本語の音声から。英語学習においても、そうしたスタンスは大変有用になると信じております。
他にも、50音図の並び方の秘密であったり、音声学の様々な実験方法がわかりやすく紹介されていたり、私の大好きな映画『マイ・フェア・レディー』のエピソードが紹介されていたりと、およそ音声学というものに触れたことがないという人が手にとってもそんなにストレスなく読み進めることのできる体裁になっています。
著者について
読んでいて感じたのが著者の川原繁人先生の人柄です。読者に直接語り掛けてくるような調子は非常に丁寧で優しく、読んでいてすぐに先生の授業を受けたくなってしまいました。さらに、言語学者としても30代半ばにしてすでにいくつかのアメリカの大学で教鞭もとられ、たくさんの研究発表をされていることから、非常に優秀な先生だということもわかります。日本人でこうした経歴を持つ言語学者はそう多くはいないと思います。先生はTwitterでもこの本のことをご紹介されています。お薦めの一冊です。
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