メンタル・コーパスのススメ


英語力をわかりやすくに表しているのは「迅速な表現力」だと思っています。「どれだけたくさんの英文を知っていて、その知識をすぐに使えるか?」ということです。

高校生3年生以上の人なら、学校でそれなりの量の英文に触れてきたことでしょう。しかし、どれだけの人が触れてきた英文を覚えているでしょうか?今すぐに淀みなく詠唱できる英文はどれだけあるでしょうか?

自分が平凡な英語力しかないと思っている人は、この「淀みなく詠唱できる英文」というのは非常に少ないのではないでしょうか。

私は、この「淀みなく詠唱できる英文」のストックを増やしていくことが英語力向上の鍵だと思っています。ここで、頭の中にストックされたこうした英文の集合をメンタル・コーパスと言うことにしようと思います。

 

メンタル・コーパスとは?


メンタル・コーパスという言葉を理解する前に、コーパスという言葉について説明しておきます。『スーパー大辞林』によると、コーパスは次のように定義されています。

 

言語資料体。個別言語・一作家のテキストや発話を大規模または網羅的に集めたもの。

 

 

「個別言語・一作家のテキストや発話を大規模または網羅的にあつめたもの」とあります。しかし、今問題にしているのは英語という個別言語ですから、「個別言語のテキストや発話を大規模または網羅的に集めたもの」というのが、これからお話するメンタル・コーパスでいうコーパスの意味になります。つまり、英語学習におけるメンタル・コーパスは、次のような感じになります。

 

 

頭の中にストックしてきた大量の英文

 

 

英語を理解したり、話したりするためには、今まで接触して頭の中にストックされてきた大量の文にアクセスしかつ参照する必要があります。その中で適したものをすばやく検索&ピックアップして意味を理解したり、発話行為につながるのではないか、と考えています。最近では、このメンタルコーパスを単純に増やしていくことで、英語力は飛躍的にアップするはずだと考えています。

さきほど、「淀みなく詠唱できる英文」という言葉を使いましたが、このメンタル・コーパスの英文は「すぐに引き出せる知識」でなければなりません。「淀みなく」という言葉を使っているのはそうした意味からです。以上のことをふまえ、メンタル・コーパスがどのようなものかをまとめてみると、以下のようになります。

 

 

頭の中にストックしてきた、大量の「すぐに引き出せる英文」

 

 

次に、メンタル・コーパスを大きくするためには何をすればいいのか、ということをお話しします。

 

 

レシテーションのススメ


まず最初にお勧めしたいのが、レシテーション(recitation)と呼ばれる暗唱トレーニングです。

私自身、いままでいろいろな英文を暗唱してきました。演説、文学作品、英詩など、様々なタイプの英文の暗唱を試みました。今でもしっかりと覚えているものもあれば、細かいところを忘れてしまったというものもあります。しかし、そうやって触れてきた英文のリズムやイントネーション、それに文章の流れなどはなかなか忘れることがないものです。

レシテーションをやる際に気をつけなければいけないことがあります。

 

 

あまり肩に力を入れすぎないこと

 

 

覚えることができればそれにこしたことはありません。しかし、ここで勧めているレシテーションはあくまでも、メンタル・コーパスを大きくするためのトレーニングとしてのものですから、必ずしも完璧に暗唱できる必要はないのです。真面目な人なら、「絶対に全部覚えてやる!」と力んでしまう人もいるかもしれません。しかし、そのような場合は往々にして、長くは続かないものです。

かくいう私も真面目な性格があり、最初はレシテーションにこだわっていくつもの文章を暗唱しましたが、なかなかたくさんの文章を細部まで覚えておくのは相当な労力も要することもあって、別の方法も模索しました。

 

 

朗読のススメ


私の場合「朗読」というトレーニングに落ち着きました。朗読を通して、実際はレシテーションの域まで達したものもありますが、すべて覚えなくとも十分にメンタル・コーパスを増やすことはできるのだなということを学びました。

私が朗読と出会ったのは、元NHK国際放送のアナウンサーの青谷優子さんがきっかけでした。初めて青谷さんを知ったのは、NHK worldかどこかのサイトで、青谷さんによる芥川龍之介の『蜘蛛の糸』の英語朗読を聞いたことでした。

鳥肌が立ちました。その朗読は尺八で奏でられたAmazing GraceのBGMが流れ、天竺のお釈迦様が蓮の池の周りを散歩しているシーンから始まるのですが、私は最初の朗読を聞いた時点ですでに魅了され言葉がありませんでした。多くの日本人が感じるであろう仏教文化の控えめな、あのなんともいえない心地よい雰囲気を、青谷さんは英語で表現していました。

それからというもの、私も「朗読」の虜になり、小泉八雲(Lafcadio Hearn)の作品を中心に、朗読活動をするようになりました。縁あって、青谷さんとはインターネット上で少し交流させていただく機会もあり、直接お会いしたことはないですが、今でもいろいろと勉強させてもらっています。

 

 

まとめ


レシテーションにしても朗読にしても共に大事なことは、英文を精読し、筆者(話者/実演者)がどのような気持ちで読むのかということを考え、向こうの気持ちに立って読むことです。これは、質の高いメンタル・コーパスを構築するために非常に大事なことです。

棒読みで覚えた大量の英文では、質の高いメンタル・コーパスは構築できません。英文を適切な場面で引き出して使用していくことも非常に難しくなります。「生きた音声のまま」英文をメンタル・コーパスに格納していくことが必要になります。

こうしたやり方で多くの英文を記憶していくことは、以前に書いた記事『音声知識と記憶力』で述べたトレーニングを継続的にしている人なら可能です。みなさんも、ぜひためしてみてはどうでしょうか。

 


takeondo
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都内の私立学校に勤務する英語教師(英語科教諭)。学生時代に英語音声に魅了され、英語教師の道へ。とりわけ関心があるのは、英語のプロソディ(超分節音的側面)とよばれるリズム、イントネーションなど。英語朗読、英語落語にも興味があります。 Certificate of Proficiency in the Phonetics of English 2nd Class 趣味:囲碁(四段)、ランニング(ハーフ1時間30分/フル3時間40分)

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