日→英翻訳はおもしろい!(「まっくろくろすけ」の翻訳を考える)


「日→英翻訳」について考える第2段です。日→英翻訳に注目している理由は、ただ単に個人的におもしろいというだけでなく、東京五輪などを控える今、将来「日本のことを海外に伝えていくのは私たち日本人であってほしい」という願いから、英語の先生はもちろんのこと英語に関わっている多くの日本人に「身近なものを英語で描写する表現力」を磨いていってもらいたいと思っているからです。こうしたことを日本に詳しい英語母語話者に任せるのではなく、できれば土着の民族である私たち日本人が、古来から受け継がれている日本独特の郷愁とか情景みたいなものを海外に正確に伝えていってもらいたいと思っています。(偉そうにすみません)

 

さて、前回は浅利庸子先生の講演から村上春樹の作品の翻訳を扱いましたが、今回は宮崎駿の代表作『となりのととろ』から、日本人ならほとんどの人が知っているであろうキャラクター「まっくろくろすけ」を英語でどう表現するか、ということを考えてみました。

 

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出典

 

トトロで英語を学ぼう!英日対訳付き』によると、「まっくろくろすけ」の英訳は以下のようになっています。

 

dust bunnies

 

ちょっと驚きました。bunnies?まっくろくろすけって「うさぎ」なの??

視点を変えてこの英語を日本語にするならば、今度は「ほこりうさぎ」という感じでしょうか。

 

いまいち合点がいかないので、いくつかの辞書でbunnyを調べてみましたが、ピンとくる意味がありませんでした。参考までに、掲載されているbunnyの意味を書いておきます。

 

bunny

❶《話》うさちゃん.

❷《俗/時に侮蔑的・不快×》活発で魅力的な女の子,かわいこちゃん;スポーツマン好きの女の子

❸《主に英》リス

❹《豪・NZ・米俗》ばか,まぬけ;だまされやすい人, 「かも」

❺バニーガール

❻《俗》(レスビアン相手の)売春婦;女役のレズ;(ホモ相手の)男娼(だんしょう)

❼《米俗/古風》=Welsh rabbit (←チーズトーストの一種だそうです)

❽《米バスケット俗》=lay-up (←レイアップシュートのことです)

❾《B-》英国の喜劇俳優J. Robertson Hare (1891-1979)のあだ名

出典は『小学館ランダムハウス英和大辞典第2版』;例は省略

トトロってうさぎのようにも見えるから、欧米人は「大きいトトロ」、「中くらいのトトロ」、「小さいトトロ」をみんなうさぎとして認識していて、どうせ「まっくろくろすけ」もこの仲間だろうから、bunnyにしてしまえ!としているのかとも思いました。しかし、dust bunnyをググってみたところ、ざっと次のような画像が出てきました。

 

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dust bunny、こういった概念が存在するんですね。wikiによると、dust bunnyは以下のように定義されています。

Dust Bunnies (or dustbunnies), also called dust mice, are small clumps of dust that form under furniture and in corners that are not cleaned regularly. They are made of hair, lint, dead skin, spider webs, dust, and sometimes light rubbish and debris, and are held together by static electricity and felt-like entanglement.

(出典:wikipedia(dust bunny)より)

 

よくよく画像を見てみると、ほこりが集まってうさぎのようにも見えます。これがdust bunnyというわけです。では、「まっくろくろすけ」は本当にdust bunniesでいいのでしょうか。そもそも「まっくろくろすけ」という言葉は、物語の中でメイが作った造語のはずです。貫太のおばあさんが「ススワタリ(’soot sprite’と翻訳されています)」と表現していますが、こちらのほうは、おそらく長年語り伝えられてきた語彙なのでしょう。しかし、「まっくろくろすけ」の英訳ももっと「造語感」を出してもいいのではないかと思いました。

私が持っている「まっくろくろすけ」のイメージは、「黒」「丸い」「かわいらしい」「目が大きい」といったところでしょうか。やはりこの「うさぎ」はなんとなくしっくりきません。そこで、改めて、自分なりに「まっくろくろすけ」の英訳を考えてみました。

  • little blackies
  • little dusties
  • blacky fluffies
  • blacky little fluffies
  • fluffy little blackies
  • dusty blackies
  • dusty fluffies
  • dusty little blackies
  • dusty little fluffies
  • dusty little blacky fluffies
  • dusty little fluffy blackies

 

私の中で外せなかったのが、「黒いイメージ」でした。なので、「黒さ」を直接的に示す’black’、または間接的に示している’dusty’を用いることにしてみました。fluffyやblackyなどの語末にあらわれる[-i]という音ですが、これは幼児語にあらわれるいわゆる「かわいさ」を示す音なので、しつこいくらい使ってみようと思いました。

 

fluffyという言葉は、形容詞もありますが、ここではfluff「うぶ毛、羽毛;けば、綿毛」という言葉に幼児語の響きを持たせる[-i]という音を付けてfluffyというわけです。ちなみに、グーグル画像検索でfluffyとググってみると以下のような画像が出てきました。

 

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みんな「フワフワ」っとした画像が出てきています。まっくろくろすけに似ているキャラクターもいくつか見えますね。ということで、fluffyという言葉は使いたいなと思いました。

どれも「強・弱・強・弱」というリズムの読みやすい語でありますが、音節数なども考えて、以下の3語、4語くらいのものに絞りました。

  1. fluffy little blackies (6音節)
  2. dusty little fluffies (6音節)
  3. dusty little blacky fluffies (8音節)
  4. dusty little fluffy blackies (8音節)

正直言って、3と4は欲張りすぎている感じが少しありますが、4語で8音節でも響きは悪くない気がします。

さて、どれもよさそうに見えましたが、気づいていなかった大きな問題がありました。それがPC、つまりpolitical correctnessという問題です。英語の母語話者を含む英語が堪能な何人かの方に、これらの表現について意見を伺いました。

 

blackyという語は、第一感、黒人を連想してしまう

 

あ、そうか!と思いました。blackyはたしかに子供が使いそうな言葉ですが、子供同士使っている場面を想像すると、’Hey, you blacky!(おい、そこの黒人!)’みたいな人種差別的な発言を連想させてしまうんですね。残念ながら、こうしたことがすぐに連想できるほど、私の英語力は十分にsensitiveなものではありませんでした。ということで、blackyを使うことはやめ、今回考えた「まっくろくろすけ」の英訳はdusty little fluffiesになりました。

 

Please, please come on out, Dusty Little Fluffies!

まっくろくろすけ、出ておいで!

こんな感じでどうでしょう。少なくとも造語感は出ているかなと思います。native speaker intuitionとは程遠い、いち外国語話者の試みでしたが、いろいろと考えた事でとても勉強になりました。

 

ちなみに、後でわかったのですが、「まっくろくろすけ」は、dust bunniesの他に、black sootsやsoot gremlinsといった翻訳もあるようです。うーん、難しい。でも翻訳って面白いですね。以上!

 


takeondo
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都内の私立学校に勤務する英語教師(英語科教諭)。学生時代に英語音声に魅了され、英語教師の道へ。とりわけ関心があるのは、英語のプロソディ(超分節音的側面)とよばれるリズム、イントネーションなど。英語朗読、英語落語にも興味があります。 Certificate of Proficiency in the Phonetics of English 2nd Class 趣味:囲碁(四段)、ランニング(ハーフ1時間30分/フル3時間40分)

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