先日,神戸学院大学グローバルコミュニケーション学部主催のワークショップに参加してきました.私の講演内容は英文朗読に関するものでした.英語を教える時に私が意識しているのは,「与えられたテクストを正確に音声化する」ということですが,このことは言い換えれば「いかに聞き手に配慮して音声化できるか」を意識することに他なりません.そして,聞き手を意識した朗読をするには,新旧情報の提示にメリハリをつけて朗読する必要があります.
9月に行ったLET関東支部のワークショップの時と同様,韻律理論の基礎をベースに英文朗読の簡単な枠組みを紹介させていただきました.与えられた英文をいかに切り分けるか(tonality),どの部分にフォーカス(核)を当てるか(tonicity),どのタイプの音調をフォーカスされた部分(核)に置くか(tones)という話をし,具体的な語句,文,パッセージなどを例に音声化の仕方を紹介しました.
上で述べた「核」という部分には5つないしは7つくらいの音調パターンがあらわれると言われますが,こうした音調パターンを正確に使用するためには,まずは声の上がり下がりを正確に把握する必要があります。先日,Twitterのアンケート機能を使って簡単な実験をしてみました.以下の3つのtimeという語の発音(No.1 ~ No. 3)のうち「ピッチが上昇しているもの」はあるかどうかというもの.
ピッチが上昇しているのは…
— takeondo (@takeondo_k) March 6, 2019
ひとつの投稿の中で音声と選択肢を提示できなかったためか(はたまた潜在的にこのトピックに関心がある人が少なかったためか,それとも…)得票率は低かったものの,回答は割れたように見えます.No. 1は平坦調,No. 2とNo.3は下降調のイントネーションになります.なので,正解は「該当なし」になります.よくNo.3のような発音を「ピッチが上昇している」と思ってしまう人がいるのですが,起点のピッチの高さが高いだけで,そこから下降しています.音声分析ソフト(Praat)を使ってピッチ曲線(pitch contour)を示すと以下の図のようになります.
No.1
No. 2
No.3
ちなみに,ピッチが上昇している発音というのは以下のようになります。ピッチ曲線もあわせてご覧ください.
1回目
2回目
さて,私がイントネーションの話をする際に,必ずといっていいほどする話があります.それは,私たち日本人は話す際に声門閉鎖を多用しがちなため,英語のピッチ変化を自在に操るためには,意識づけが必要なのではないかという話です.この話をする際に,いつも引用する『英米発音新講 改訂新版』(1981, 五十嵐新次郎)からの話があります.
発音の練習といっても,私たちの目的は歌を歌うのではなくて,ことばを話すのですから,声楽家の発生ほどやかましくいわなくてもよいのですが,前にも申しましたとおり,変則英語の追放は,まずは発声からです。
そこで,近づきやすいところからはいることにしましょう。発声練習として,まず音階練習をしていただきましょう。べつに難しいことはなく私たちが学校で習ったとおり,Do, Re, Mi, Fa, Sol, La, Si, Doと歌え上げ,次に,Do, Si, La, Sol, Fa, Mi, Re, Doと下げます。ピアノその他の楽器があればそれによるにこしたことはありませんが,Do, Re, Mi, Faくらい,どなたでもできると思います。咽喉を楽にして歌うことが必要です。固くなってもいけません。顎を落とし,口を十分開いて練習をします。
これが一つ。それから,これも前に申し上げましたが,深い太い声が英語には必要なので,そのために次のような練習をします。上の音階練習と同じく,ふつうにDoからで初めて,Re, Mi, Fa, Sol, La, Si, Doと歌い上げます。帰りが少し違うのです。Do, Si, La, Sol, Fa, Mi, Re, Doとここまで降りてきたら,ここで止まらないで,下へ二つSi, Laと下がります。このSi, Laの辺りまで下がってくると,慣れない方は骨が折れるかもしれませんが,声の方はかなり太く,深くなっているはずです。この一番下の,低いLaを覚えていて,今後はこのLaのところを,音階練習の出発点Doとして,次々,Re, Mi Fa, Sol, La, Si, Doと歌い上げ,Do, Si, La, Sol, Fa, Mi, Re, Doと下げます。この練習はメロディ(イントネーション)のときにぜひ必要ですから,なん回も繰り返し練習をしていただきます。ふつうの音階練習に比べて,下へ2段ずれた形になります。
低い方の音が楽に出るようになりましたら,Do, Re, Mi, Faの代わりに,アの母音を使って同じ練習をなん度も繰り返します。出始めの太い深いア(Do)ア(Re)の響を研究してみることです。音階練習ではできても,すなわち,歌を歌うときはできても,ことばを話す時に,せっかくの低い深い声が出ないのではなんにもなりません。
なお,繰り返しますが,この練習は音域を広げる練習でもありますから,イントネーション練習のおりの予備練習としてぜひ実行していただきたいのです。(『英米発音新講 改訂新版』pp30-31)
上記のピッチ曲線にも見られるように,下降調においても上昇調においてもある程度のピッチの持続が必要です。五十嵐(1981)は,日本人が英語の発音に取り組む際に,上記のような練習を「音域を拡げる練習」として紹介しており,「イントネーション練習のおりの予備練習」として有効だとしています.とりわけ下降調のピッチが下がりきった辺りは,日本人の発声方法だと慣れていないのできつく感じられることが多く,喉を閉じてしまう,つまり,声門を閉鎖してしまいがちになります.
英語のイントネーションを操るには,まずはピッチ変化を正しく把握し,こうした声門の動きに注目してみることからはじめてもいいかもしれません.
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