Twitterで以下のようなアンケートを行い、以下のような結果を得ました。
I like Japanese novels but l don’t like Chinese ones very much. Chineseでストレス(強勢)はどこに置く?
— たけおんど (@eigotalent) 2015, 11月 8
JapaneseとChineseの強勢の位置ですが、通例は”-nese”に(第一)強勢が置かれます。
Japanese
Chinese
アンケートの英文ですが、実はネイティブスピーカーに読ませると、たいていの場合は次のように読んでくれます。
I like Japanese novels but l don’t like Chinese ones very much.
あれ、Chineseの強勢は-neseじゃなかったの?と思われた方も多いかもしれません。両方の単語も、辞書には-neseに(第一)強勢を置くことが発音記号などに明記されているのですが、こうしたものは時と場合によって変わります。
ここで問題なのは、JapaneseとChineseを照らし合わせて比較しているということです。最初にJapaneseと聞いたあとで、後のChineseも同じように-neseに強勢が置かれてしまうと、「え?いま何neseって言ったの?」となるやもしれません。つまり、この2つの単語を対照的に並べた時に重要となる要素は、-neseではなく、Japa-とChi-のほうなのです。こうした場合、聞き手に配慮して、紛らわしくないように後にでてきた単語の強勢が移動することがあります。
また、以下の大学名は、どちらも通例はCaliforniaといったふうに発音されます。
the University of California
the University of Southern California
しかし、この2つの大学がスポーツか何かしらの分野において争うことになったら、次のようにアクセントが移動します。
The University of California is fighting against the University of Southern California
この場合、Californiaという単語は2回登場し、2回目の時たいして強調した読み方をせずに(たとえそれが通例正しい読み方であっても!)、Southernという単語にフォーカスを当てるのが、聞き手に配慮した話し方になるわけです。
また、これは大学時代に松坂ヒロシ先生が実際に耳にしたことがあるとおっしゃっていたのですが、次のような発音の英語もあるそうです。
The University of Southern California is fighting against the University of California
先ほどの文とは大学の順番が変わっています。2回目に出てきた大学名はフォーカスする部分が不明瞭なので、本来フォーカスを当てる必要がないCaliforniaのアクセントの位置を敢えて変えている例です。
おそらく、英語のネイティブスピーカーはこうしたことを無意識にやっていることなのだと思います。「聞き手に配慮する英語」って素敵だと思いませんか?
52歳から英語のやり直し学習を始めて1年半の学習者です。ツイッターでフォローしている方々から たけおんど さんを知り、ツイッターでもフォローさせていただいています。
今回のブログの内容は、胸にすとんと落ちるようなすごく納得できる内容でした。通常の英会話でアクセントが移動しているなと気づくだけの英語力はありませんが、ネイティブの方々が自然にされている『聞き手に配慮した話し方』ができることも今後の新たな目標にして学習を続けて行きたいと思います。
近江園善一様
いつも私の突拍子のない考えをTwitter等で読んでいただいてありがとうございます。
日本語も英語も、特に音声言語では形式の上でも「経済性」を求めるものなのだなと常に考えさせられます。我々は「共有知識」を前提としてコミュニケーションをしているわけですが、こんな細かいところまで表れるのですから、母語話者(ネイティブスピーカー)ってすごいですよね。
これからもよろしくお願いします。
比較の問題とは無関係に、先頭にアクセントがある名詞の前につく形容詞では、近いアクセントが連続するのを避けて、後置の第一アクセントと前置の第二アクセントが入れ替わると一般に言われていますが、それについてはどうお考えになりますか。
例えば、Chinese people では、その規則によって Chi に第一アクセントが移動する(名詞の方が、全体の第一アクセントになるため、Chi に移動した第一アクセントは、全体の第二アクセントになる)という風にです。
三角恒道 様
はじめまして.
難しい問題ですね.
この話しは強勢の問題というよりもピッチの問題だと思っています.
形容詞+名詞の場合,通常は全体として名詞の方にアクセント(核)が来て,おっしゃる通りの産出形が生まれると思っています..
第2アクセントもまた「潜在的第1アクセント」(松坂ヒロシ著『英語音声学入門』では「潜在的第1強勢」と「強勢」という言葉を使って説明していますが,ここではアクセントという言葉を使おうと思います.)ですので,ちょっとしたことでアクセント交替は起こるような気がします.
Chinese peopleですが,ゆっくり発音すれば潜在的に「強強強弱」というアクセントの句だと思いますが,実際は「強2/強3/強1/弱」とpeopleの第1音節が第1アクセントとなると思います.Chi-の音節で比較的高いピッチで始まり,そのまま-neseも高いまま,そしてその高さのままpeopleの第1音節の発音に入り,第2音節で低いピッチまで落ちると思います.
もしアクセント交替の理論を無視するならば,Chi-に強勢は保たれるものの,比較的低いピッチで始まり,-neseで高いピッチになり,前者同様にpeopleの第1音節まで高く,第2音節で低いピッチで発音されると思います.しかし,こうしてできあがった産出形には違和感を感じてしまいます.私なりに理由を考えてみました.以下は仮説です.
ひとつは三角さんがおっしゃったように最終的な第1アクセントがあるpeopleの第1音節の前に別の強い音節を並列させてしまうと,結果として全体の核の位置が知覚しづらくなってしまうからなのではと感じました.「強3/強2/強1」という並び方をどうしても避けたいのではないかということです.unknown writerなどの句も同様でしょうか.しかし,international relationのように強音節が連続していない場合(強弱強弱弱 弱強弱)でもこの現象は起こります.となるとこの理論はおかしいように思います.
もう一つは,この「形容詞+名詞」の構造パターンにおいては,名詞に核が来ることによって形容詞の固有なアクセントパターンは崩れてしまうため「その形容詞において強勢を受けるすべての音節は重要」というような判断がなされているのではないでしょうか.後ろに名詞がくることよって,それ以前のすべての強勢はすべて高いピッチで発音され,「核が名詞に移ったことで形容詞のアクセントパターンは崩れちゃったけれどちゃんと意味を伝る必要はあるよな」というような意識が働いて,比較的高い音程を平坦に保つことでその目的を果たそうとしているのではないかということです.これはイントネーション理論で核の前に現れる頭部(head)という考えに似ているなと思いました.
上に挙げた名詞句の例は,アナウンサーなどが一番最初にニュースを読み上げる場合の主語の位置などに現れることが多いと思います.後続する名詞の意味内容が容易に予想でき,情報価値が低い場合は名詞に第1アクセント,つまり核は来ないことが多いので,上記のアクセントパターンが起こらない場合も十分に考えられると思います.
お答えになっているかどうかはわかりませんが,いろいろ考える機会になりました.
ありがとうございました.
はじめまして。丁寧なご返信ありがとうございます。
確かに、語と語の結びつきの中にも音の高低はあるかとは思いますが、自分としては、この場合は強勢だけで考えて十分なことのように感じます。
一般的に、日本人は全く気にしませんが、正しく発音しようとする場合、Chinese people を、nese に強勢を置いたまま文の中で発音すると、非常に発音しにくいのです。英語的には、リズム感を失い、文全体の流れが非常に悪くなって、英米人には、耐えられないと思います。
ただ、第一強勢と第二強勢があって第一強勢が後ろにある形容詞でも、先頭に強勢がある名詞の前で全て移動するわけではなく、どちらなのか自分も辞書で確認することがよくあります。その内勘が働いて区別できるようになるとは思いますが、難しいですね。
蛇足ですが、高校生でも単語としてのアクセントを覚えるのがやっとで、強勢が移動する話などは混乱するかもしれませんが、Japanese などよく出てくる例については、授業で少し触れられると将来的に役に立つのではないかと思われます。