英語落語と英語教育


落語というと、若い人は「比較的年配の人の娯楽」とか「古臭い」といったイメージを持っている人が多いようです。しかし、コミュニケーションという観点から見ると、落語は実に奥が深い芸術分野だと言えます。

 

朗読をやるようになって、「英語落語」なるものが存在することを知りました。今回はこの「英語落語」に焦点をあててお話しします。

 

 

Diane 吉日さん

「英語落語とはどんなものなのか?」と思ってネットで検索してみると、いくつか実際にやっているものを見つけました。その中でひときわ目を引いたのは、イギリスのリヴァプール出身のDiane 吉日さんという落語家の方でした。Dianeさんが演じるThe Samurai(宿屋敵)という作品は、私に大きな衝撃を与えてくれました。下にyoutubeのリンクを貼ります。

 

 

Dianeさんの演じる英語落語は非常にシンプルで、日本で英語を学んでいる中高生にも十分に理解可能なものだと思いました。題材が「日本人にとって身近な話題であること」に加え、「使われている表現自体も容易なもの」ということもあると思います。

おそらく、ひと通り日本の英語教育を受けた人なら、上のDianeさんの英語落語を理解できる人は多いのではないでしょうか。

 

上の動画を見て、英語落語には英語教育に大切な要素が多いなと感じました。以下にそのように感じた理由をまとめてみます。

 

Authenticであること

Dianeさんの英語落語を聞いて思ったのは、英語落語には「聞いている人が容易に状況を想像できる工夫がなされている」ということです。そもそも「落語」とは「聞き手に状況を想像させる娯楽」なので、こうした工夫はいたるところに凝らされているわけです。

 

私の英語教育の信条に次のようなものがあります。

 

言語材料は学習者にとってauthenticなものでなければならない

 

authenticという言葉を英和辞典で調べてみると「本物の」という意味の形容詞だと書いてあります。「言語材料が本物である」というのもわかりづらいのですが、英英辞典を調べてみると、authenticにはbased on factsという説明があります(Longman Dictionary of Contemporary English, Fifth Edition)。つまり、少し詳しい言葉でいうならば「英語を学習する時に扱う素材は、実際に使われているような事実に基づいていているものでなければならない」という意味になります。

 

洗練された英語落語はまさにauthenticな教材であると言えます。英語を教えていて難しいのは、「授業という人工的な環境の中で、いかにしてauthenticな状況つまり自然な言語使用の状況を想像させるか」ということです。英語落語には、英語教師がこうした課題を解決するヒントがたくさんつまっているような気がします。

 

Simpleであること

もうひとつDianeさんの英語落語を聞いて思ったのは、「simpleに伝えることの大切さ」です。この公演はアメリカで行われたものなので、日本の落語文化をアメリカ人に特にわかりやすく伝えるために工夫していたのかもしれません。

 

近年の日本の英語教育でも、できるだけsimpleな英語で表現することの大切さはよく耳にします。例えば、「英語の授業は英語は行う」ということについても、simpleな英語で表現することが鍵になってくるのだと思っています。

英語の先生の中には、不必要な場面でわざわざ難しい表現を使わせたがる人がいるのですが、これはまったくためにはなりません。「何かを説明する」ということは「難しいもの」を「わかりやすいもの」にすることがほとんどですので、中高生にエッセイや作文を書かせるのに難しい表現の使用を推奨するのは、英語での説明力をつけさせる訓練としては、大きく首を傾げてしまいます。

 

アメリカ人に向けたDianeさんの英語落語は、「simpleな言語表現」と「言語以外の表現(身振り、手振り、小道具などを使った表現)」を駆使して、非常にわかりやすいものに仕上げられています。

公演の中で、リアリティを持たせるためにいくつか日本語を使っていましたが、見ていたアメリカ人もどういう意味の言葉か容易に推測することができたのではないでしょうか。それだけ状況がはっきり伝えられているのです。私たち英語教師が目指す教室で使用する英語も、こうしたものであるべきではないのでしょうか。

 

まとめ

「目の前にある英語に命を吹き込み、その英語にリアリティを持たせ生徒に伝えていくこと」は英語教師の重要な仕事だと思っています。噺家さんのレベルに到達することはかなり難しいですが、目指すべき方向は近いような気がします。

 

Rooms are available.

 

Dianeさんが落語の中で使っていた表現です。実にシンプルな英語ですが、実際にDianeさんが使っていたイントネーションで言うので、客引きの文句に聞こえるのです。また、人通りを眺めるように言うから、そのように聞こえるのです。イントネーションを始め、あらゆる非言語的な表現を駆使してことばは初めて生きてきます。

 

ことばの本質を考える上で、英語落語は大きなヒントを与えてくれるような気がします。来月、はじめて英語落語の寄席に行ってきます。少しずつ勉強していこうと思います。

 

【参考】

画像出典:http://girlschannel.net/topics/409114/

Diane 吉日さんホームページ:http://www.diane-o.com/ja


takeondo
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都内の私立学校に勤務する英語教師(英語科教諭)。学生時代に英語音声に魅了され、英語教師の道へ。とりわけ関心があるのは、英語のプロソディ(超分節音的側面)とよばれるリズム、イントネーションなど。英語朗読、英語落語にも興味があります。 Certificate of Proficiency in the Phonetics of English 2nd Class 趣味:囲碁(四段)、ランニング(ハーフ1時間30分/フル3時間40分)

2 Comments on 英語落語と英語教育

  1. 「語学教材はAuthenticであること」という考えに同感です。使う場面や状況とともに身に着けた言葉ほど「使える」道理です。今一つ大切なことは「Authentic素材を教材に仕立てる」工夫です。こちらをご覧ください。<http://mintap.kir.jp/public/ns/h3/language_reality.html> これは「Language Reality in Movie Scenes 文法と話法 言葉づかいの臨場感」と題したシリーズです。リンクをたどっていくと、ことばが使われる現場(音映像つきスキット)にたどり着きます。

    • 田淵先生
      コメントありがとうございます。
      返信が送れてすみません。昨日まで校務で沖縄に行っておりました。

      リンク先拝見しました。「すべての言語使用にはContextが伴う」というのは本当に同感です。
      教材のレベルでauthenticになっていないものを扱わなければいけないような場合は、言語材料をいかにauthenticに提示するかが語学教師の力量にのみ依存してしまいますね。
      語学教師の質をあげることも重要だと思いますが、先生が取り組まれているように教材自体をauthenticにする取り組みは非常に意義があると思います。
      もう少し時間をかけて先生のサイトを拝見させていただこうと思います。

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