18日からテニス部の出張で福岡に行っていました(24日に帰京)。天候がすぐれず、待機時間が多かったのですが、生徒達は全力で頑張っていました。
テニスといえば、大坂なおみ選手がBNPパリバ・オープンで優勝しました。彼女の魅力は観客を魅了する力強いパワープレイ。サーブも最速193km/hと男子さながらのスピードです。試合のハイライト動画を見ましたが、安定した気持ちのいいパワープレイが多くなりました。
ご存知の通り、大坂選手はアメリカ人と日本人のハーフ。育った環境から主要な使用言語は英語であるため、大抵のインタビューは英語で受けているようです。優勝インタビューを見て思ったことがあるので、今日はそのことについて書こうと思います。以下、ツイッターで挙げられていたインタビューの一部です。
“This is probably going to be the worst acceptance speech of all time” – @BNPPARIBASOPEN champion @Naomi_Osaka_
We beg to differ! #BNPPO18pic.twitter.com/4XpckdmLtq
— WTA (@WTA) March 18, 2018
感激しているからというのもあるかもしれませんが、あまり明瞭なスピーチになっていませんね。しかし、そこもまたかわいらしいと思ったのは私だけでしょうか。本人もそのことを自覚しているため、振り返って、”This is probably going to be like the worst acceptance speech of all time”と照れながら言っています。大坂選手の話し方は、若い人特有の話し方だなぁと思いました。語尾のイントネーションを上げ気味にするup talk(詳しくはこちらを参照)が多いですね。
今回注目したのは彼女の母音です。そもそも母音というのは、同一言語内でも住んでいる地域などによって、かなりバリエーションがあるように理解していますが、発音に関して個人差が大きい特徴だと思います。あまり大きく口を動かさないような話し方をするためか、全体的に母音が「狭め」に聞こえます。上記のツイッター動画では、18秒あたりから次のように言っています。
Oh, oops, sorry. I would also like to [θɪŋk] Darsha.
対戦相手のダリア・カサトキナ(Daria Kasatkina)選手を愛称でDarshaで呼んでいますが、Darshaの前の動詞は何かという問題。この動詞の部分の発音だけ切り出すとおそらく[θɪŋk]のように発音しており、前後の文脈がなければ多くの人はthinkだと思うだろうなと感じました。しかし、「ダーシャのことを考える」だったら、自動詞thinkを用いてthink of Darshaのようになるはずですし、こうした受賞スピーチ(acceptance speech)ではお世話になった人への「感謝」を述べるのが通例ですから、ある程度英語ができる人であればすぐにthankだなとわかり、「ダーシャに感謝したい」と理解できるわけです。thinkとthankは真ん中の母音の違いのみで区別されるいわゆるミニマル・ペアと呼ばれるものですが、何かしらの理由で発音が崩れ、形式・意味両方の観点で、thinkの可能性を排除できるという知識を話し手と聞き手の間で共有しているので、コミュニケーションが成り立っているのだと思います。外国語のリスニングにおいても、やっぱり形式(文法)と意味は共に大切なのだなと考えさせられます。
大坂選手の母音は全体的に狭めだということは他のインタビュー動画などを見たときから感じていましたが、この例では特に顕著にそれを感じました。もし大坂選手にお願いして単独でthinkとthankを別々に発音してもらったら、両者の違いははっきりと出るのだろうと思います。しかし発音というのは本人も気づいていないレベルで崩れることも多いので、話し手は形式(文法)や意味の上での常識みたいなものを考慮して「たぶん聞いてる人もわかってくれているだろうな」みたいに考えながら、話すスピードを調整したりenunciation(はっきりとした発音)を崩したりしているのだと思います。
何が言いたかったかというと、子音や母音などの個々の発音というのは、思っている以上に崩れてしまうもので、それを補うファクターが結構あるんだということです。そのファクターというのはおそらく、
- 形式的文脈(統語論的構造)
- 内容的文脈(意味&語用論的構造)
あたりなのじゃないかなと思いますが、発音練習ってこういうことを考慮しながらうまくできないかなぁとかいつも考えています。
まだ書きたいこともありますが、あまりうまくまとまらないので今日はこの辺で。
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