核を意識した英文朗読を①


ひさしぶりのブログ更新ですが、何回かに分けて「音読・朗読」について書こうと思います。音声の説明というのは非常に長くなりがちで、1回のブログエントリーでは膨大な量になるため書くことができません。そういった理由もあって今まで避けてきましたが、複数回に分けて(1文ずつ?)お話していこうと思います。以下のパッセージをご覧ください。

 

    There is a lady in a coffee shop waiting for a friend. She is wearing a dress that seems to be new. Then a waiter comes along with a coffee. He somehow trips on something and spills the coffee all over her. Now her dress looks as though she has been fighting with a bull in a puddle of dirty water. She stares at her dress, then turns to the waiter, glares at him, and says in a loud voice, “Thank you very much!”

Do you think the lady really wanted to thank the waiter for soiling her dress? Was she looking for an excuse to go home without seeing her friend? Naturally, you would answer, “No way. She must have been extremely angry.” You may say so because she glared at the waiter while she spat out those words. In other words, it is the way she looked at him and the way she talked to him that helped you understand what her real intention was.

Element English Communication Ⅱ(啓林館)Lesson 1 ‘Beyond Words’より)

 

現在私が使っているコミュ英Ⅱの教科書からの抜粋です。対話文などでない限り、生徒には極力自分で読んで聞かせることにしています。というのは、教科書に付属しているCDなどの朗読はいかにも「教科書的」な読み方で、分かりづらいと感じることが多いからです。それと、できるだけ、教壇に立っている人間が声を発してダイレクトに読み聞かせをしてやりたいという考えているからです。このパッセージ、みなさんはどのように朗読されるでしょうか。以下に私が読んだものを貼付けます。

 

 

個々の音声にフォーカスがあたりがちな発音指導ですが、今回は情報構造にフォーカスを当て、リズムやイントネーションについてお話したいと思います。このパッセージを読むにあたって、私が意識していることや無意識にやっていることかもしれないですが大切だと思うことを書いてみようと思います。

 

There is a lady in a coffee shop / waiting for a friend.

 

課に登場する最初の文です。聞き手にしっかりと映像をイメージさせなければなりません。「しっかりと伝えるべき語」を太字でハイライトしていきたいと思います。この英文を聞いた人は「コーヒー店女性待っている」ことが分からなければなりませんから、それらを連想させる具体的な意味の詰まった語、つまり内容語にフォーカスを当てる必要があります。機能語と内容語については、おおかたの英語教師の方ならばご存知かと思いますので説明はいたしません。覚えておいていただきたいのは、とりわけこのような課の最初に出てくる文では、聞き手にしっかりと状況をイメージさせなければならないということ、そしてそうした場合は内容語を通してしっかりと意味を伝える責任は大きいということです。

スラッシュで切った箇所は、意味や思考などのグループ(いろいろな呼び名があります)の切れ目です。この切れ目に関しては絶対この位置で切らなければならないということはありませんが、話すスピードなどによって多少のバリエーションがあります。ここでは、とりあえず普通のスピードで一般的な読み方をした場合の位置で切ってみることにします。

それぞれのグループの中には、通常、「核」と呼ばれるとりわけフォーカスが当てられる語(音節)があります。通常はグループ内の最後に来る内容語とされていますが、情報構造によって流動的に変わってきます。ここでは、一番最初に提示される文ですので、基本的にどれも同じくらいの情報価値があると考え、ルール通りグループ内の最後の語(句)に核が来ると考えます。核は青い太字でハイライトしました。

最初のグループの内容語はlady、coffee、shopの3つですが、coffee shopは複合語なので1つの「語句」として考えます。複合語coffee shopの第1ストレスはcoffeeの第1音節に来るので、この音節でしっかりと声の調子を比較的高いところから低いところまで落とします。

coffee shopの後ろがピリオドで文が完結している場合は声が下がったまま終わるのですが、後にはまだwaiting for a friendという修飾語が続きます。このように後ろにまだ言うべきことが続く場合は、声が落ち切った後でも、「まだ続くよ〜」という意図を込めて、少しだけ声が上がります。この声の調子の変化を図示すると以下のようになります。慣れるまでは声の調子の変化を認識することが難しいかもしれませんが、ゆっくり読んだ場合と、普通の速さで読んだ場合の音声もつけましたので参考にしてください。

coffee shop

 

この声の調子は、専門的に言うと下降上昇調と呼ばれるのですが、日常会話をはじめあらゆる形式のスピーチで頻繁に使われています。

 

2つめのグループの核は、これもまた最後の内容語のfriendに表れます。以下の図を見てみましょう。

friend

 

今度は後ろがピリオドで、文が完結しているので、声の調子は比較的高いところから低いところまで落ちたままになり、ひとつ前のグループのようにその後で声が上がることはありません。この声が高いところから低いところまで落ちる声の調子のことを下降調といいます。基本的には疑問文などの特殊な状況でない限り、文の最後では声の調子は落ちたままになることがほとんどです。

このように見ると、核のある音節付近で声の調子が大きく変化していることがわかります。この声が落ちたり上がったりする調子のことを音調といいますが、核となる音調のことを核音調といいます。核音調を意識して英語を話したり声に出して読んだりできるようになると、聞いている人に内容がしっかり伝わるようになります。

今回は最初の文なので、すべての内容語が新しい情報として聞き手に伝わらなければならず、グループの最後の内容語にフォーカスが当たることが一般的な読み方かと思われますが、情報構造によって核音調の位置は変わってきます。言葉で説明すると非常に複雑に見えますが、慣れてくると自ずと英語に表れてきます。

余談になりますが、内容語以外の語は非常に「ぞんざいに」読まれることが多いです。先ほどの私の朗読では比較的はっきりと読んでいますが冒頭のThere is aは[ðəzə]くらいまで崩れて読んでも、聞き手が分からなくなるといった問題はまずないかと思います。

長くなりますので、今回はこれくらいで。説明するのにすごく時間がかかりますね…


takeondo
About takeondo 57 Articles
英語教師。学生時代に英語音声に魅了され、英語教師の道へ。とりわけ関心があるのは、英語のプロソディ(超分節音的側面)とよばれるリズム、イントネーションなど。英語朗読、英語落語にも興味があります。 Certificate of Proficiency in the Phonetics of English 2nd Class 趣味:囲碁(四段)、ランニング(ハーフ1時間30分/フル3時間40分)

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